「……空が、高いよ」

 ロイアは、突然呟かれた言葉に驚いた。
 驚きすぎて、手にしていたカルテを落としてしまった。

「今、何て……!?」

 振り返れば、ノアは窓の外を見上げていて。

「……僕には、もう、届かないね……」

 そう言って、ノアは空へ向かって手を伸ばした。
 入院患者用の寝巻きの袖から覗く腕は、骨が透けそうなほど細くて。
 ベッドの上に座る、悲しいほど頼りないその背中に。

 ――ああ、彼はもう、長くはないのだと。

 そう悟り、涙が溢れそうになるのをぐっと堪える。
 話すことすらままならなかった彼を、最後に突き動かしたあの人に。
 彼にとって“空”であったあの人に。

 ――早く来て。
 彼が、2度と会えない場所に旅立ってしまう前に。
 どうか、どうか早く――。

 ロイアにはもう、胸の前で手を握り、祈ることしかできなかった――。







「牙―KIBA―」 ノア&ロイア

お礼のくせに暗くてすいません;