「コーセルテルの竜術士物語」 リリック&メオ→ジェン


「それは」

「それは?」

「恋のタマゴってやつかな」

 真剣な表情で答えたリリックに、同じく真剣な表情で耳を傾けていたメオはズルリと肩を落とした。
 間髪入れずに横にあったカップがリリックの頭に振り下ろされる。
 メオお手製の頑丈なカップは、カコンッといい音を立てた。

「いった!! 何すんのさ!?」

「るせぇ!! 人が真剣に悩んでるってのにふざけんな!!」

「ふざけてなんかないよ!!」

 頭上にぷっくりと膨らんだタンコブを撫で、涙目になりながらも、リリックは強く言った。
 さらに言い返そうとしたメオだったが、いつもならここで悲鳴を上げて逃げ出すリリックのその態度に言葉を飲み込む。
 彼を殴るために浮かせた腰を椅子に下ろし、メオは不貞腐れたように頬杖をついた。

「……どういうことだよ」

「どうもこうもないよ」

 見えないことを分かっていながらも、リリックはひりひりと痛むタンコブに目を向けた。
 それから頬を膨らませ、メオに不満そうな瞳を移す。

「その人のことを見ると胸がドキドキするんでしょ? その人のことを考えるだけで夜も眠れないんでしょ? それは、恋してるってことだよ」

「恋……」

「そう、恋」

 反芻したメオに、リリックは大きく頷いた。
 そしてタンコブをさする手を止め、胸を張ってその中央をポンッと叩いた。

「そういうことならこの僕に任せておいてよ! 大丈夫、ジェンの趣味や好みなんかもばっちり把握して……」

 そこまで言って、リリックはハッとした。
 とある女の子について相談してきたメオだったが、相手の名前は告げていない。
 カッと赤く染まったメオに対し、リリックはみるみるうちに青くなる。

「何で知ってんだてめぇーーーーー!!」

「ぎゃああ、ごめんなさーい!!」

 メオの怒鳴り声、リリックの叫び声、そしてカッコーン!とカップの小気味いい音が水竜術士の家に響き渡った。







この後、メオはやっぱりロイに相談するべきだったと後悔します(苦笑)
そもそもメオはそういう相談はしなそうだという意見は置いておく。