「ゴゴゴ西遊記」 三蔵一行 「暇だー!!」 天竺へ向けての旅の道中、悟空が突然そんな声を上げた。 しかしそれはいつものことなので、 ((またか……)) 三蔵と悟浄は溜息をつきつつ無視し、すたすたと先を急ぐ。 八戒だけはおにぎりを食べながら隣を歩く悟空を見上げた。 「なぁなぁ、人間バンジーやろうぜ、人間バンジー!」 「ブヒー、何それおもしろそう!」 閃いた、とでも言いたげに悟空が表情を輝かせ、八戒は興味を持つ。 「一体どうするの?」 「それはな……」 わくわく、と期待に満ちた八戒の顔を見て、悟空はフッフッフと怪しげな笑みを浮かべ、そして―― 「こうすんだよ!! 伸びろ如意棒!! 飛んでけ悟浄!!」 瞬時に如意棒を伸ばしたかと思うと、悟空は悟浄が振り返る間もなく彼を打ち上げた。 カッキーンと気持ちのいい音がして、三蔵と八戒は目を剥いた。 「悟浄ー!?」 「ブヒー! 悟空何してんのー!?」 キランッと空の星になった悟浄に、三蔵も八戒もあわあわと慌てふためく。 しかし悟空はケラケラと楽しそうに笑っている。 「だから人間バンジーだって。ほら」 そう言って悟空が真上を指差した。 三蔵と八戒が上を見上げると―― 「ぅぁぁぁぁぁああああああっ!!」 悟浄が空から降ってきた。 そしてドゴォッと豪快な音を立てて地面に穴をあける。 「悟浄!? 大丈夫ですか!?」 「ブヒー! 悟空ひどいよ! 悟浄に何てことするの!?」 三蔵は慌てて穴の中を覗き込み、八戒は悟空に抗議した。 「何って、だから人間バンジーって言っただろ?」 悟空は何でもなさそうな顔をしてさらりとそう言ってのける。 そして耳に指を突っ込んでほじくり始めたまったく反省の見られないその態度に、八戒も黙っていられずさらに抗議しようとしたが―― 「ほほう、どこにもヒモなんて見当たらないがな……」 ゴゴゴゴゴ、という怒りのオーラを纏った悟浄の声に振り返った。 あの高さから落ちても無事なのはさすが、伊達に妖怪をやってはいない。 悟空はチッと舌打ちする。 「生きてたか……まったくゴキブリ並みにしつこいなお前」 「何だとこの猿!! バンジーとか言ってワタシをぶっ飛ばしたかっただけだろう!? 危うく死ぬところだったぞ!?」 「何言ってんだ、悟浄」 ガッと怒鳴り、今にも殴り掛かろうとしている悟浄に、悟空はやれやれと肩を竦めた。 そして彼の方を向き直り、いつになく真剣な顔で言う。 「お師匠様を守るこの旅は、いつ何時お師匠様を狙う妖怪どもに襲われるかも分からない、常に死と隣り合わせの危険な旅なんだ。だからいつも覚悟しておかなくちゃならない……そう、いつでもヒモ無しバンジーやるくらいの覚悟でいるべきなんだよ!!」 カッと瞳を見開いた悟空に、悟浄も八戒もごくりと唾を飲み込んだ。 その通りだ。 三蔵の肉を食べれば不死となる。 そんな噂を耳にした妖怪たちが、日々三蔵を狙って襲い掛かって来ている。 自分たちの使命は、そんな妖怪たちから三蔵を守ることだ。 たとえ自分たちの命を失うことになったとしても、三蔵だけは守り抜かなければならない。 「そうだよね……ボクたちは、どんな危険な目に遭っても、絶対にお師匠様を守らなくちゃいけないんだもんね」 「すまん、悟空……! ワタシの考えが甘かった……! お師匠様を守るためなら、ヒモ無しバンジーくらいどうってこと……」 「ギュウギュウ!!」 「ギエーっ!?」 三蔵のお経で頭の輪っかが絞まり、悟空が悲鳴を上げた。 八戒と悟浄がハッとして振り返れば、三蔵が溜息をついている。 「まったく、悟浄も八戒も悟空の言葉に感心なんかしないでください。ヒモ無しバンジーをやるくらいの覚悟、というのはいい心構えですが、だからといってそれを実行しなくたっていいんですよ!」 ぷりぷりと怒る三蔵に、悟浄も八戒もうっかり悟空の口車に乗せられそうになってしまったことに気づく。 怒りで冷静な判断力を失っていたのかもしれない。 ともかく、悪いのは悟空ただ1人だけということで―― 「いつもいつもワタシを吹っ飛ばしやがって!! たまには反省したらどうだ!?」 「ブヒー! 悟浄、ボクも加勢するよ!!」 悟浄と八戒は頭を絞められて無防備になっている悟空をボカスカと殴りに掛かった。 悟空が悪い以外のなにものでもないので、三蔵は呆れて溜息をつくが止めはしない。 「さっさと行きますよ。悟空、またこんなことをしたらギュウギュウの刑ですからね!!」 そう言った三蔵の言葉に反応し、悟空の頭の輪っかはさらに絞まった。 悲鳴を上げた悟空に、さすがに悟浄と八戒も同情して殴るのを止めるのだった。 うん、ごめんなさい。 |