「ライブオン」 翔×アイ(?)


「おいっし〜い!!」

 いただきますを言い、すぐに一口目を食べた翔が満面の笑みでそう言った。

「おいしいのは分かるけど、もうちょっと静かにしてよお兄ちゃん」

 斜め向かいに座るミルが頬を膨らませる。
 翔はごめんと謝った。

「でもお母さんの作るカレーはホントにおいしいんだもん!」

「ホント、おばさんの料理はどれもおいしいわよね。いいなぁ、翔たちは毎日こんなご飯が食べられて」

 母親の料理を手放しで絶賛する翔に、彼の正面に座るアイが羨ましそうに言った。
 今夜はアイの父親は帰りが遅いというので、彼女は天尾家で夕食をご馳走になっているのだ。

「あらあら、アイちゃんもお料理上手じゃない。私の腕なんかすぐに追い越しちゃうわよ」

 アイの斜め向かいに座っていた翔とミルの母・歩はそう言って微笑む。
 母親のいないアイに料理を教えているのは他でもない、彼女だ。
 師匠のお墨付きをもらい、アイは嬉しそうに微笑んだ。

「でも本当においしいよ! オレ、お母さんの料理大好き! お母さんも大好き!」

 翔はえへへーと笑いながら、ぱくぱくとカレーを口に運ぶ。
 そんな彼の横顔を、アイは苦笑して見つめた。

「あんたは相変わらずね。そういうの、普通は恥ずかしがって言えないものなのに」

 それがまだ小学校低学年くらいならばそれほどおかしくはないが、翔はもう5年生、もうすぐ最上級生なのだ。
 普通、それくらいの年の子供ならば、親や兄弟に向かって好きとはなかなか言えないものだ。
 それは翔が特別なのか、天尾家の教育の問題なのかは分からないが、昔から彼はそういう部分はとても素直だった。

「えっ、どうして? オレ、何か変?」

 瞳を丸くして、翔はアイを見つめた。
 アイはますます苦笑する。

「変っていうか……すっごく素直」

「だって好きなものは好きなんだもん!」

 翔はにっこりと笑う。
 そして指を折って数える。

「ミルも好きだし、徹も好きだし、ケンタも好きだし、黒星たちも好きだし、ペダルや仲間の皆、ライブオンで知り合った人たちもみんな大好きだよ! あ、もちろん」

 翔は顔を上げ、再びアイを見つめる。

「アイのことも大好きだよ!」

「なっ……」

 にーっこりと満面の笑みを湛えて言った翔に、アイは思わず赤くなる。
 それが恥ずかしくて、プイッと顔を背けた。

「もうっ、恥ずかしい奴! 人前でそういうこと言うんじゃないの!」

「へ? 何で?」

「お兄ちゃん……」

 きょとりとして小首を傾げる翔に、ミルが呆れて溜息をついた。
 歩はあらあらと言って微笑んでいる。

「どうして? 何で人前で言っちゃいけないの?」

「お兄ちゃん……!」

 論点はそこではない。
 ますます呆れるミルに、翔はアイと妹を交互に見つめるばかりだ。

「あっ、じゃあさ」

 何か思いついたと言わんばかりに、翔が人差し指を立てた。
 アイはちらりと振り返る。

「2人っきりの時なら好きって言ってもいいの?」

「余計悪いわこの大ボケーーーーー!!」

 にっこりと微笑んだ翔に、アイはテーブルを思い切り叩いて立ち上がった。
 彼女の顔はますます赤くなっていたが、翔はわけが分からず首を捻るばかり。

「お兄ちゃんったら……!」

「あらあら、2人とも相変わらず仲良しね」

 ミルは頭が痛いと額を押さえ、歩はふふふと優しく微笑んでいた。







翔の素直さには本当にびっくりさせられます。