「コーセルテルの竜術士物語」 火竜一家(−イフロフ)


「おーい、アグリナー」

「「「しーっ!」」」

 アグリナを探して居間にやって来たメオに、リタ、マノ、スゥの3人が一斉に人差し指を立てて諌めた。
 何事かとメオが驚いて見れば、テーブルに突っ伏して眠っているアグリナの姿がある。

「何だ、寝ちまってるのか」

 まったくしょうがねぇなぁ、と溜息をつき、メオは彼女に近づいて揺り起こそうとした。
 しかし、その手をリタたちが止める。

「ダメ! アグリナ姉ちゃん、最近術の勉強すっごく頑張ってるんだよ! 疲れてるんだろうから寝かせておいてあげようよ!」

 そう言うリタの後ろで、マノとスゥもそうだそうだと頷いている。
 メオは瞳を丸くした。
 いつも、アグリナが勉強していると、勉強より一緒に遊ぼうとせがんでいるのは他の誰でもなくリタたちだ。
 転寝をしていようものなら叩き起こして、遊びに連れ出すのが常だ。
 そのリタたちが、アグリナの体を心配して寝かせておいてあげようと言うようになるなんて。
 メオはアグリナを見つめた。

「……確かに、最近は頑張ってるもんな」

 最初の頃は失敗ばかりで、本当に彼女が竜術士になれるのかと心配ばかりしていたが、最近は簡単な術はもちろん、大きな術やかなりの集中力を必要とする術もできるようになってきている。
 彼女は、確実に成長しているのだ。
 そして、成長しているのはアグリナだけではない。
 わがままな部分の多かったリタ、いたずらばかりしていたマノ、甘えん坊な反面すぐに癇癪を起こしていたスゥ。
 そんな妹分・弟分たちが、今では他人への気遣いを覚えている。
 彼らの成長は、兄である自分にとっても、とても嬉しいことだった。

「あっ、アグリナ姉ちゃんまた落とした!」

 はらり、と床に落ちた毛布を取りに、リタが走った。
 そっと毛布を彼女の背中に掛けてやるその仕草は、よく遊び疲れてその辺で眠ってしまうリタたちに自分がしてやったのと同じだ。
 最近は、アグリナの仕事に変わっていたけれど。

「まったく、どっちが子供なんだか分かりゃしねぇな」

 メオはリタたちの様子を見つめ――微笑った。
 3人の子供に囲まれるアグリナの姿は、まるで母親だ。
 母親――つまり、一人前の竜術士。

「別に急ぎの用ってわけじゃないからまた後にするよ。お前ら、ちゃんと自分の勉強はしろよ?」

 テーブルの上に広げられた、いかにも読み途中といった感じの本や、中途半端に埋められたノートを見て、メオは3人に釘を刺した。
 このままでは、アグリナと一緒に昼寝をしてしまいかねない。
 メオの言葉にやや不満そうな顔をしたものの、3人とも素直に頷く。
 その姿を見届けてから、メオは今晩の夕食の当番はアグリナだけれど、自分が代わってやろうと台所へ向かった。







あくまでとある日の火竜家の様子であって、決してメオアグではありません!!(←重要)