「ライブオン」 ちび翔×アイ(※アイの母親が亡くなっているの前提)


「かけりゅ〜……」

 うとうとと夢の世界へ入ろうとしていた翔は、泣きそうな声を耳にした。
 重い瞼をこすりながら起き上がれば、少し開いたドアの隙間からぐすぐすと鼻水をすすっているアイの姿が見える。

「アイ、どうしたの?」

 今晩はアイの父親は泊まりの仕事で帰らないとのことで、彼女は翔の家に来ていた。
 翔の部屋の隣が、将来妹のミルの部屋になるのだが、まだミルは赤ん坊のため今は物置代わりの空き部屋になっており、アイはそこで寝ていたはずなのだが。

「うぇ〜ん!」

 翔の姿を確認すると、アイは泣き出して彼の元へ駆け寄った。
 そのまま抱きついてわんわんと泣く。

「ひとりやぁなの! かけりゅといっちょにねりゅの〜!」

「ア、アイ?」

 パジャマを掴んでびえーっと泣き出したアイに、翔は驚く。
 寝る前に翔の母に「翔と一緒の部屋で寝る?」と訊かれ、アイは「ひとりでだいじょうぶ!」と胸を張って言いきっていた。
 だから別々の部屋で寝ていたのだが――

(さみしくなっちゃったのかな……)

 アイの母親が亡くなって、まだ日は浅い。
 普段は何でもなさそうに振舞っていても、それはきっと、寂しいのを我慢しているだけで。
 自分が寂しがれば、父親を始めとした周りの人たちを困らせることになると、アイは知っているのだ。
 けれど、暗い部屋に1人きりで耐えられるほど、彼女は大人ではないから。

「いいよ、アイ。いっしょにねよう!」

 アイの頭を優しく撫で、翔はにっこりと笑った。
 それを見て安心したのか、アイもごしごしと涙を拭って破顔する。
 翔が毛布をめくって隣に入るよう促せば、アイは嬉しそうに笑って従った。
 2人で布団に潜り込み、顔を見合わせて笑う。

「ねぇ、かけりゅ」

「なぁに?」

「てんごくって、ありゅのかなぁ……?」

 アイの突然の質問に、翔は瞳を丸くさせた。
 急に何だろうと首を傾げながらアイを見つめる。

「アイのママ、ちゃんとてんごくにいけたかなぁ……?」

 呟いたアイの声が、とても不安そうで。
 また泣き出してしまうのではないかと心配になり、翔は思わず彼女を抱きしめた。

「天国はあるよ。アイのママも、ちゃんと天国に行ってるよ」

 本当に天国があるかどうかなんて知らない。
 だって、自分は行ったことがないのだから。
 だけど、今重要なのはそれが本当かどうかではなく、アイを悲しませないことだ。
 これ以上、アイに寂しい思いをさせないことだ。

「だから、だいじょーぶだよ。アイのママは、きっと天国でアイのこと見ててくれるよ」

「かけりゅ……」

 そう呟いたきり、アイの反応がなくなった。
 どうしたのかと翔が腕を解いて彼女を見れば、すーすーと穏やかな寝息を立ててアイは眠りについていた。
 おそらく安心したのだろう。
 彼女の寝顔に、翔もホッと胸を撫で下ろす。
 けれど涙の痕は、月明かりだけの薄暗い部屋の中でもはっきりと見て取れて。

「だいじょーぶだよ、アイ。さみしい時は、いつもオレがそばにいるから」

 今日のように、彼女が闇に恐怖を抱かなくなるその時まで。
 アイの髪をそっと撫で、翔もまどろみの中へと落ちて行った。







翔がアイちゃんの癒しになっていればいいと思います。