「イナズマイレブン」 円堂&秋


「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」

 ガシッ!!
 円堂の気合の入った声に続き、遠心力で勢いのついたタイヤが彼の手の中で大きな音を立てて止められた。
 日も沈みかけたひと気のない鉄塔広場は静かで、彼の声もその音もよく響いた。

「今日も燃えてるね」

「木野」

 ふと後ろから掛けられた声に振り見れば、マネージャーの姿があった。
 鞄を持っているので学校の帰りだろう。
 そういえば、今日は委員会があるからと部活には顔を出していなかった。

「そろそろドリンク終わる頃だと思って」

 そう言って微笑み、木野は手にしていたビニール袋を顔の前まで持ち上げる。
 中にはペットボトルが入っているらしかった。
 円堂が荷物を置いているベンチに目をやれば、持ってきた2本のペットボトルはすでにカラになって転がっている。

「さっすが木野」

 気の利く彼女に感心しつつ、今の今までもう飲み物がないことに気づかなかった円堂は己の失態に苦笑いした。

「頑張るのもいいけど、ちゃんと休憩もしなきゃダメよ?」

 部活の時間はとっくに終えている。
 けれど彼がここで1人で特訓している時は、時間なんてお構いなしに夢中で続け、時には休むことすら忘れているのだ。
 無理をして怪我でもすれば元も子もない。
 ビニール袋を差し出し、呆れたように言った木野に、円堂は乾いた声で笑うしかなかった。

「私はもう帰るけど、円堂くんもあんまり遅くならないようにね」

「分かってるって」

 まるで母親か先生のような木野の物言いに、袋を受け取って円堂はやはり苦笑した。
 木野が踵を返し、階段を下り始め――

「木野! ありがとな!!」

 円堂が彼女の背中に向かってそう叫べば、木野も振り返って手を振った。
 彼女の姿が見えなくなってから、円堂はペットボトルを取り出して口を開けた。
 乾いた喉が一気に潤う。
 夕日が沈むまであと30分もないだろう。

「……よし! あともう少しだ!」

 中身の半分になったペットボトルをベンチに置いて、円堂は再び木にぶら下げたタイヤを強く押した。
 燃える円堂の声は、階段を下りきった木野の耳にも届いていた。







まだサッカー部が弱小だった頃の日常。